本活動報告には課題図書の結末について触れる箇所がありますので、未読の方はご注意ください。
今回の課題図書はウリツカヤ『緑の天幕』でした。
今回の課題図書は、一言ではとても感想を言えない大きな小説だったので、その分さまざまな面で話が広がる会になりました。とはいっても、時系列が行き来するため謎解きの感覚を持って追いかけられること、深刻な出来事も描きこみ過ぎず淡々と描写されていることなどから、700ページ以上の大著でありながら読書の楽しみをもって読み進められた方が多かったです。
「大きな美しいタペストリーにたくさんの人々の人生が描きこまれている」とおっしゃった方がいました。3人の主要人物にからめて、サブから端役まで200人以上が登場し、ほとんどの人たちはなんらかの挫折を抱えて生き死んでいきます。そしてハッピーエンドではないにもかかわらず、複数の参加者の方が本書に不完全な人生を生きることへの肯定を感じていらっしゃいました。管理人としては、ウリツカヤに大きな贈り物をしてもらった気持ちになりました。
参加者の方のコメントの一部を以下に。
- 課題図書全体について
- ゴーストになっていろいろな人の人生を眺めている気持ちになった。
- 引用されているロシアの小説や詩を読んでみたくなった。
- 貴族や激しい性格ではない、ふつうの人たちが登場するロシア小説なのが新鮮だった。
- よかった箇所
- 三人の女友達の関係性の描写。ずっと気まずかった二人が親しくなる過程がよかった。
- バッハの音楽がサーニャを癒すシーン。
- 画家のムラートフや文学者のシェンゲリが、好きなものがあるから生き延びる展開。
- 将軍と元秘書、アンナとバジルなど、結婚の外で続く関係。
- 意外だったこと
- 共産主義でも貧富の差が激しかった。
- KGBでも書類が整っていなければ権力を振るえなかった。
- 地下出版とはいえザミャーチン『われら』が読めた。
- 体制側もやっかいな人間は亡命させようとした。
- 思ったよりおおらかで人間味がある。わたしたちの目に入る情報とは違う現実があるのだろうと思った。
- 発見したこと
- シェンゲリの影響によって文学にのめりこんだミーハが不幸せになってしまう皮肉な展開。
- シェンゲリは失敗者として描かれているが、生き延びている。
- 帝政ロシア時代からずっと、息苦しい体制に抵抗したりたくましく生きる伝統がロシアにはあるのではないか。
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