ちいさな読書部第12回『バルタザールの遍歴』開催のお知らせ

日時:9月26日(土)15:30-17:30
場所:オンライン 

一つの身体を共有する双子の貴族。転落の果てに二人が辿り着いたのは――。
「私の筆跡にやや乱れが見えるとしたら、それはバルタザールが左手で飲み、私が右手で書いているからだ」
1906年、ウィーンの公爵家に生まれたメルヒオールとバルタザール。しかし二つの心に用意された体は一つだった。放蕩の果てに年若い義母との恋に破れた彼らは酒に溺れ、ウィーンを去る。やがてナチスに目を付けられ、砂漠の果てに追い詰められた二人は――。 双子の貴族が綴る、転落の遍歴。世界レベルのデビュー作。(角川書店の課題図書紹介ページより)

ちいさな読書部第12回は、佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』を読む会です。

佐藤亜紀は、ヨーロッパを舞台にした緻密な時代考証に基づく長編小説で知られる現代日本の作家です。『天使』で第53回芸術選奨新人賞(平成14年度)、『ミノタウロス』で第29回吉川英治文学新人賞、新しいところでは今年3月に『黄金列車』で第10回Twitter文学賞を受賞しており、同時代で真に注目すべき作家のひとりであることは間違いないでしょう。

今回の課題図書はデビュー作でありながら今年5月に3回目の文庫化を果たした『バルタザールの遍歴』です。一時期なかなか手に取りづらかった本作品を、集まって読んでみたいと思います。

本会はZoomを使ってオンラインで実施します。接続方法についてはこちらを、Zoomの使い方についてはこちらをご覧ください。初めてセットアップする場合のテスト方法はこちら

過去のオンライン読書会でわかったのですが、3人に1人ほどの割合で、デバイスの内蔵マイクが音声をうまく拾ってくれないようです。オンラインミーティングが初めてという方は、ヘッドセットやマイク付きイヤフォンのご利用をお勧めします。有線の製品なら1000円程度から入手できます。

ちいさな読書部第11回『イザベルに: ある曼荼羅』活動報告

本活動報告には課題図書の結末について触れる箇所がありますので、未読の方はご注意ください。

今回の課題図書はアントニオ・タブッキ『イザベルに: ある曼荼羅』でした。

管理人は、主人公の旅に「曼荼羅」を持ち込む必要があるのだろうか?と訝しみつつ読んだのですが、今回は僧職の方にお越しいただきました! 曼荼羅とは何か、本作品の構造にどのように曼荼羅が組み入れられているかを詳しく(辛抱強く)教えていただいて、ひとりではとてもたどり着けない読みを共有できました。川島さん、議論を引っ張っていってくださった他の読書部会員のみなさん、ありがとうございました。

本ブログの前回のエントリで本書の翻訳者である和田忠彦の文から引用した、タブッキにとって「小説において虚構を構築するという行為自体が、「時間」や「記憶」の探求という主題に向き合うこと」だったという言葉が、まさに本作品の中心的なテーマであったように思います。そして、曼荼羅の概念はこのテーマの追求においてすぐれた補助線として使われていました。

参加者の方のコメントの一部を以下に。
  • 表層から深層意識に沈んでいく構造を持った小説。
  • 時間・空間をこえる浮遊感がある読みごこち。
  • ダンテ『神曲』に似ている。女性を探し求める旅のなかで、罪悪感や哀惜の情が、道中で見る夢への欲望へと変遷していく。
  • ある登場人物は「曼荼羅は解釈を待っている」と語る。これは解釈はひとつではなく、読み方はさまざまだという作者のメッセージではないか。
  • 最終的に赦される話なのに平安にならない。中心が「無」であることの不安がある。
  • 幻想のイザベルが許してくれる。イザベルを探す旅はつまり自分を赦す旅。
  • 旅が好きなので気分転換になった(主人公の移動距離ではタブッキ作品中トップクラスではないでしょうか/管理人)。
  • イザベルにたどり着き、読者を満たしてくれる流れがよかった。
  • タブッキにしてはオチがある話で親切だった。
  • 会話文に括弧がつかないのが新鮮だった。夢と現実が区別できなくなるような感覚があった。
  • 時空を超え、読者を混乱させることで何度も読み直させる、境界がはっきりしない。
  • 流動するのが人間(曼荼羅)で、時間と場所を切り取るのが写真。
  • 中心/イザベルを求める旅において中心が無であったのは、中心にあるものが世界に満ちているということでもある。曼荼羅の中心とはある一点でありながら、果てのない全体(深層の世界)でもあり、個人の奥底には全宇宙があるというのが仏教の考え方。
  • バイオリン弾きが曼荼羅を消すのが不安だった。わからない気持ち悪さがある。
参加者の今回のおすすめ本・話題になった本はこちら。


第12回の課題図書は佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』、9月26日(土)15:30からの開催です。申し込みについては、こちらのブログで別途ご案内します。

ちいさな読書部第34回『老人と海』開催のお知らせ

日時:6月1日(土)15:30-17:30 場所:オンライン かつて読んだ人も、初めて読む人も。いま、歴史的名作を「新解釈」で! 老漁師サンティアーゴには、もう84日間も釣果がなかった。幼い頃から老人の見習いをしていたマノーリンは、一人前の漁師となったいまも老人を慕い、生活を気づ...