ちいさな読書部第23回『移民者たち』開催のお知らせ

日時:7月30日(土)15:30-17:30

場所:オンライン

どんな眼からもぬぐい去れない靄がある

異郷に暮らし、過去の記憶に苛まれる4人の男たちの生と死。みずから故郷を去ったにせよ、歴史の暴力によって故郷を奪われたにせよ、移住の地に一見とけ込んで生活しているかに見える移民たちは、30年、40年、あるいは70年の長い期間をおいて、突然のようにみずから破滅の道をたどる……。語り手の〈私〉は、遺されたわずかの品々をよすがに、それら流謫の身となった人々の生涯をたどりなおす。〈私〉もまた、異郷に身をおいて久しい人だ。個人の名前を冠し、手記を引用し、写真を配した各篇はドキュメンタリーといった体裁をなしているが、どこまでが実で、どこまでが虚なのか、判然としない。(白水社の課題図書紹介ページより)

ちいさな読書部第22回は、W. G. ゼーバルト『移民たち』を読む会です。

前回の読書会の課題図書『緑の天幕』では、自らの希望により、また体制に強制されて亡命する人物が数多く登場しました。また、現実の世界でも移民の数は増えています。国連によると国境を越えた移民は2020年時点で世界で約2.8億人います。年500万人のペースで増え、世界の人口の約3.6%を占めます(日経新聞「移民とは 世界で2.8億人、労働力の調整も」)。祖国を離れて生きるとはどういうことなのか、『移民たち』を読んで想像してみたいと思います。

お申し込みはPeatixのこちらのページで受け付けています。

今回の課題図書は、紙の書籍は版元在庫僅少になっています。電子書籍版が提供されていますが、紙でお読みになりたい方は早めの入手をおすすめします。都内の図書館では31館に蔵書があります。

お願い:本会は少人数でゆったり話し合うタイプの読書会です。会の運営に響きますので、ご参加の目処が立ってからお申込みいただきますようお願いいたします。無断欠席された方は今後の会にはご参加いただけませんので、ご承知おきください。

ちいさな読書部第22回『緑の天幕』活動報告

本活動報告には課題図書の結末について触れる箇所がありますので、未読の方はご注意ください。

今回の課題図書はウリツカヤ『緑の天幕』でした。

今回の課題図書は、一言ではとても感想を言えない大きな小説だったので、その分さまざまな面で話が広がる会になりました。とはいっても、時系列が行き来するため謎解きの感覚を持って追いかけられること、深刻な出来事も描きこみ過ぎず淡々と描写されていることなどから、700ページ以上の大著でありながら読書の楽しみをもって読み進められた方が多かったです。

「大きな美しいタペストリーにたくさんの人々の人生が描きこまれている」とおっしゃった方がいました。3人の主要人物にからめて、サブから端役まで200人以上が登場し、ほとんどの人たちはなんらかの挫折を抱えて生き死んでいきます。そしてハッピーエンドではないにもかかわらず、複数の参加者の方が本書に不完全な人生を生きることへの肯定を感じていらっしゃいました。管理人としては、ウリツカヤに大きな贈り物をしてもらった気持ちになりました。

参加者の方のコメントの一部を以下に。

  • 課題図書全体について
    • ゴーストになっていろいろな人の人生を眺めている気持ちになった。
    • 引用されているロシアの小説や詩を読んでみたくなった。
    • 貴族や激しい性格ではない、ふつうの人たちが登場するロシア小説なのが新鮮だった。
  • よかった箇所
    • 三人の女友達の関係性の描写。ずっと気まずかった二人が親しくなる過程がよかった。
    • バッハの音楽がサーニャを癒すシーン。
    • 画家のムラートフや文学者のシェンゲリが、好きなものがあるから生き延びる展開。
    • 将軍と元秘書、アンナとバジルなど、結婚の外で続く関係。
  • 意外だったこと
    • 共産主義でも貧富の差が激しかった。
    • KGBでも書類が整っていなければ権力を振るえなかった。
    • 地下出版とはいえザミャーチン『われら』が読めた。
    • 体制側もやっかいな人間は亡命させようとした。
    • 思ったよりおおらかで人間味がある。わたしたちの目に入る情報とは違う現実があるのだろうと思った。
  • 発見したこと
    • シェンゲリの影響によって文学にのめりこんだミーハが不幸せになってしまう皮肉な展開。
    • シェンゲリは失敗者として描かれているが、生き延びている。
    • 帝政ロシア時代からずっと、息苦しい体制に抵抗したりたくましく生きる伝統がロシアにはあるのではないか。

参加者の今回のおすすめ・話題になった本や映画はこちら。

次回の課題図書はW・G・ゼーバルト『移民たち:四つの長い物語』、7月30日(土)15:30からの開催です。申し込みについては、こちらのブログで別途ご案内します。

ちいさな読書部第34回『老人と海』開催のお知らせ

日時:6月1日(土)15:30-17:30 場所:オンライン かつて読んだ人も、初めて読む人も。いま、歴史的名作を「新解釈」で! 老漁師サンティアーゴには、もう84日間も釣果がなかった。幼い頃から老人の見習いをしていたマノーリンは、一人前の漁師となったいまも老人を慕い、生活を気づ...