本活動報告には課題図書の結末について触れる箇所がありますので、未読の方はご注意ください。
今回の課題図書はマグリット・ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』でした。
一文一文が長く、けして読みやすい小説ではありません。しかし読み通してみれば、古代ローマの偉人の視点から世界を見て皇帝としての生涯を体験できる、ほかに並ぶもののない小説であると感じました。読書会では、ハドリアヌス帝のリーダーシップや恋愛、政治観の現代性、硬質な文体などがとくに話題に上りました。皇帝の統治方法や広域通信のしくみなど、古代ローマについてもっと知りたくなる本でもありました。
参加者の方のコメントの一部を以下に。
- 文体と構成:
- 文章が濃密で上品。何度でも読み返したい。
- 主要な登場人物は少ないが、それぞれとの関係にユニークさがある。
- 劇的な表現はなく抑制された声で語られているが、困難に遭ったときのハドリアヌス帝の困惑や動揺が明確に伝わってくる。
- 俯瞰的に広大なローマ帝国を描く歴史小説でもあった。
- 作者がハドリアヌス帝になりきって、史実と創作の切れ目を感じさせないように語っている。
- ハドリアヌス帝の仕事ぶり:
- 君主論として興味深く読んだ。
- ハドリアヌス帝の統治、法整備、仕事論に、今の時代にも通じる要素があると感じた。
- ハドリアヌス帝の理想世界に、本書が執筆された20世紀の考え方が入っているように感じた。
- 古代ローマの時代から人間はあまり進歩していないのかも。
- アンティノウスとハドリアヌス帝の関係:
- ハドリアヌス帝に権力がありすぎる。恋愛関係が成り立たないのでは?
- アンティノウスにとっては愛人役という仕事だったのではないか。
- 美を愛するハドリアヌス帝にとって、美しいアンティノウスは特別な存在だった。
- アンティノウスの死の悼みかたに、ハドリアヌス帝の視野の広さや多文化を吸収する能力が表れていた。
参加者の今回のおすすめ・話題になった本はこちら。
次回の課題図書はチョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』、9月30日(土)15:30からの開催です。申し込みについては、こちらのブログで別途ご案内します。
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