本活動報告には課題図書の結末について触れる箇所がありますので、未読の方はご注意ください。
今回の課題図書はマッカーシー『すべての美しい馬』でした。
ある参加者の方がおっしゃっていた「海外文学は、それぞれの作品が書かれた土地の価値観が、作品世界や登場人物の性格付けに反映されている点が魅力」という言葉を、心から感じる作品でした。本作では、アメリカとメキシコの人々の価値観が判断なしに提示され、どちらも選べなかった主人公の喪失が描かれます。居場所をなくしたジョン・グレイディが行き先もわからないまま去っていく結末は寂しいですが、分かり合えない他者の在り方を知ったことが彼の世界を広げたはず。本書を含む「国境三部作」の第三部に再登場する彼がどのような人間になっているか、うっすらとした希望を感じるものでもありました。
参加者の方のコメントの一部を以下に。
- 全体について
- 正義は行使されず主人公の幻想が打ち砕かれる。西部劇のお膳立てで西部劇にとどめを刺している。
- ジョン・グレイディが他者/他国の価値観、自らの加害性を認識する成長物語としておもしろかった。
- 往還の物語の型に従っているが、主人公は得るのではなく失って帰ってくる。浦島太郎。
- メキシコですら馬での移動は時代遅れ。車や飛行機と馬との対比を通じて、主人公の時代錯誤が浮かび上がってくる。
- 金銭の価値が軽い世界。登場人物たちの動機は金銭にない。刑務所の中でだけお金がモノを言う。
- 文体について
- 読点や鍵括弧がなく、誰が話しているのかわからなくなる。
- 形容詞が少なく、動作を詳細に書き連ねていくことでもたらされる無骨な緊張感がある。
- 暴力について
- なぜ二人は暴力を受け、かつ殺されなかったのか。
- 理由はない。マッカーシーは不合理な暴力を描く作家。
- 異物・立場を明らかにしない者は排除すべき、集団内の秩序は暴力で支配すべきとする価値観。
- 体育会系のしごきみたいなもの?
- ジョン・グレイディは、法を扱う判事には答えられない倫理の問題に直面する。
- メキシコ人の行動原理について
- アメリカより家父長制がずっと強い。女性には発言権がない。
- アレハンドラは衝動的で戦略がなく、父に抗えなかった。
- スペイン人・メキシコ人に対するアルフォンサの言葉は、スペイン市民戦争での人々の動きにも当てはまる。
- メキシコにはメキシコの倫理観があり、アメリカ人が一方的に断罪することはできない。
参加者の今回のおすすめ・話題になった本や映画はこちら。
次回の課題図書は大江健三郎『芽むしり仔撃ち』、5月27日(土)15:30からの開催です。申し込みについては、こちらのブログで別途ご案内します。
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